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経済学者が「幸運」について語った一冊『成功する人は偶然を味方にする』

私は運がいい方だと思う、いや、かなりラッキーだと思う。自分には運だけでここまでやってきたと思うところもあって、幸運についての本を見つけると買ってしまう。『成功する人は偶然を味方にする 運と成功の経済学』(日本経済新聞出版社、ロバート・H・フランク著)もその一冊。かれこれ1年も前に買ったのだけど、今が読み時と開いてみました。

運 VS 実力主義

「才能と努力なしに成功するのは難しいが、才能があり、努力をしても、経済的に成功する人は少ない」(本書より)

この本の主題は一言にすると運VS実力主義(メリトクラシー)。今では当たり前のように使われている実力主義という言葉は「イギリスの社会学者マイケル・ヤング氏が1958年にイギリスの教育制度を皮肉ってつくった言葉だ」そうです。そもそもは軽蔑の意味の造語だったのが今や褒め言葉として使われていることに対して、彼は後年残念に思っていたらしい、とあるのです。

もちろんフランク氏も本書の中で運さえ良ければ努力は不要、と言っているわけではありません。彼は経済学者らしい数字や確率を使って、実力だけでは成功しないと説いているのです。

実力と収入が比例しない事実

中でも説得力がある根拠の一つが「ある人の能力が他人より1%高いから1%収入が高い訳ではない」というもの。確かに私もこれまでの人生において何度も経験していますが、同じ職場で同じような仕事をしている場合、実力によって収入が公平に変わるかというとそうではないことがほとんど。実際にはそれぞれの人が入社した時期、どこからきたか(業界、役職、企業)、どの転職エージェントを使ったか、採用した上司が誰だったかなどによって収入は大きく変わることも。

出世のタイミングはもっと顕著で、そもそも上司や先輩が辞めないと出世しない組織が多いため、中には入社してすぐに上司がいなくなったからトントン拍子で部長まで昇りつめた人がいるかと思うと、実力や経験は十分なのに何年も同じ役職の仕事を続けている人もいます。

実力主義に偏るとどうなるか

本書の著者を含む著名人が公の場で「運は成功するための大切なファクター」だと言うと、ほぼ100%の確率で否定されるといくつかの実例を挙げて著者は述べています。

成功は才能と努力だけをもってのみ得られ、自分は優秀と思っている人は成功のための必要な努力をするのが苦になりません。それ自体は問題ではないのですが、こう言った思い込みは同時に危険だと著者は述べます。理由はこのような過信は成功する見込みが全くない分野に打ち込みすぎてしまうことがあるから。

確かに砂漠化している場所でいくら努力家の才能ある人がオアシスを作ろうとしても可能性は限りなく低い。それなら別の場所で別のことに熱中した方が良さそうです。

ひとり勝ち市場には特に運が大きく作用する

ひとり勝ち市場というのは情報革命が起きて人やモノの流動性が高くなったことにより起こり始めた現象のこと。「ほんの小さな違いが何千倍もの収入の違いにつながる」ということを実際に実験してみた社会学者のダンカン・ワッツ氏による例が興味深いです。

彼は「ミュージックラボ」と名付けて48のインディーズバンドとその代表曲を8つのサイトで公表し、サイトの閲覧者がどのくらい気に入ったか評価することを条件にダウンロードできるようにしたそうです。各曲のダウンロード数と評価の平均をそれぞれのサイトで検証したところ、8つのサイトでそれぞれ全く異なった結果だったというのです。中にはあるサイトでは1位だったのが、他のサイトでは40位だったなんてことも(!)。

細かく検証した結果「曲の運命は初期にダウンロードする人の評価次第」ということが分かったのでした。サイト公開後にダウンロードした初期の人の評価が良ければ、全体の評価がよくなる傾向にあり、その逆も然り。

モデルや俳優、芸術、スポーツ選手などの評価は運によるところが大きく、その割には1番とそれ以外の収入の差が果てしなく大きくなる傾向にあります。

そもそも才能も運なのだ!

東大生62.7%の世帯収入が年収950万円以上(2016年「学生生活実態調査の結果」より)と言うデータがあります。才能がある=東大に行ける、という訳ではないとは思いますが、一つの指標になることは間違いありません。

「才能豊かで真面目に働く意欲が高いこと自体が、そもそも幸運によるもの」とフランク氏も述べている通り、生まれつき才能があっても勉強や努力が苦手という人は、結果的に才能を潰してしまいかねないように、才能を成功に結びつけることができるのも運なのだという主張もわかります。

運とのつき合い方

本書はいわゆる引き寄せの本ではないので、どうすれば幸運になれるかや、運の見つけ方、と言った点については述べられていませんが、いわゆる運との上手なつき合い方についてはヒントが述べられています。

一つは「運に感謝すると自分の評価が上がる」ということ。要は「自分がここまで来れたのは実力100%」と豪語するよりも、ある程度の運に感謝した方が人からのウケがいいですよ、ということでしょうか。確かにオレオレ言われるとちょっと引いちゃいますよね。

もう一つが「成功は自分の力、失敗は不運のせい」と悪いことは全て運のせいにしちゃう人が多いのですが、成功も失敗も運が要素としてありますよ、ということ。確率からするとそりゃそうです。

最後は「運に頼りすぎるのも、もちろん問題ですよ」ということ。成功の最大の障害は途中で努力をやめること。何もしないでただ幸運を待つだけで成功することは難しいから。

運に頼りすぎず、されど運も大切に。経営学者らしいとても現実的な1冊でした。

最後にナポレオン・ボナパルトの一言。

「すぐれた才能も、機会が与えられなければ価値がない」

機会=チャンスを掴むための本はまた別の本を参考にしたいと思います。